「国産」回帰が覆い隠す供給網の現実 東アジアの半導体・資本連鎖と技術の要衝
自給自足の幻想を超え、韓国財閥の集中構造と国際分業のチョークポイントを直視せよ
デジタル空間を支えるデータセンターやAIインフラの拡張に伴い、部材やチップを供給する東アジアのサプライチェーンはかつてない負荷にさらされている。韓国の産業構造を分析した『業界地図』のリポートによれば、同国経済は主要財閥の資本力に依存しており、とりわけ半導体大手が供給する高帯域幅メモリー(HBM)などの基幹部材は、世界の生成AIハードウェアにとって欠かせない物理的基盤となっている。東京株式市場で日経平均株価が6万6400円台で推移するなど半導体関連株の評価が高まる局面にあっても、日本国内で語られる「国産クラウド」や「国産AI」の議論は、その土台となるシリコンウエハー、露光装置、後工程パッケージングの国際的な連鎖を直視していなければ空理空論に終わる。
東アジアにおける供給網のチョークポイント(要衝)を点検すれば、いかなる強国であっても完全な自給自足が不可能であることは明白だ。回路設計とIP(知的財産)の多くを米国企業が抑え、受託製造の最先端工程を台湾が担い、先端メモリーの量産では韓国の財閥が設備投資の規模で圧倒し、その製造に不可欠な極端紫外線(EUV)フォトレジストや超高純度フッ化水素、精密成膜装置は日本企業が支配的なシェアを持つ。この精緻な相互依存のどこか一角が欠けても先端デバイスは完成しない。韓国の財閥経営が強烈なトップダウン投資で世界シェアをもぎ取ってきた一方で、内需の偏りや下請け中小企業との格差を生んだように、特定のプレーヤーが全工程を抱え込むモデルには資源配分の歪みという限界が必ずつきまとう。
各国の政策当事者が経済安全保障を理由に巨額の補助金を投じ、国内回帰や自国製技術の囲い込みを急ぐなか、多国籍企業の事業戦略との間には乖離が生じつつある。現場のエンジニアや事業統括者が求めるのは、最速で最適解をもたらすオープンな国際規格と最高水準の構成部材であり、出所を国内製に限定した閉鎖的アーキテクチャではない。米中対立を契機とした輸出規制や投資規制の強化は、サプライチェーンの迂回や再編を促しているが、それは「国単位の閉鎖」ではなく「信頼できる同盟・有志国間での結節点の再配置」として機能している。自国製という看板だけに巨額の公的資金を振り向ける政策は、グローバル標準から外れた孤立を生み出すリスクを背負うことになる。
激動する国際環境において強靭なサプライチェーンを築く条件とは、内製化の範囲を無目的に広げることではなく、他国にとって「代替が極めて困難な結節点」をどれだけ握れるかという点に帰着する。韓国の産業が財閥への過度な依存という構造的課題を抱えつつも、メモリーの微細化と積層技術で不可欠な地位を維持しているように、日本に求められるのも全方位の「国産化」という幻想を排することだ。高機能素材、精密計測機器、高度な部品加工といった特定の工学的要衝を盤石にし、同時に世界各地のオープンな開発コミュニティや調達網と摩擦なく接続できる制度的柔軟性を保つことこそが、分断の時代における持続可能な産業基盤を形成する。